day by day






まだ陽の高い午後一番。
不意に目の前の草むらが掻き分けられたかと思うや、唐突に出くわしたのは、黄色くて野蛮な一匹の大鼠だった。

「なんだよ、今日は煎餅かよ」

クンクンと下品に鼻を慣らして近づいてきたねずみ男に、ねこ娘は手土産の包みをさっと遠ざけてジロリと睨んだ。

「何よ!森の中からいきなり出てきてなんて卑しいのよアンタはッ」

ご挨拶だと言わんばかりに片耳を小指で塞ぎ、ねずみ男は馴れ馴れしく話をつづける。

「だってよう、お前いつもうまそうなケーキとか持ってくるじゃねえか。鬼太郎や親父ばっかいい思いしてずりぃよな」
「ばっかじゃないの!?いつも大変な思いをしているのは鬼太郎や親父さんなんだよ?しかも殆どアンタのせいで!」

ギッと爪を出して指を指す。手ぶらで用事がなければこのままいつもの追いかけっこを演じる所であるが、ねこ娘はすぐに我にかえるとコホンと咳払いをひとつ、手土産を丁寧に持ち直してスタスタと歩き出した。
その後を遠慮なくペタペタと付いてくるねずみ男に、再びねこ娘は足を止める。

「アンタにあげるものなんてコレっぽっちも無いんだからね」

目が釣り上がり、半猫化状態になっているねこ娘に、ねずみ男は目を逸らして「ああ、そうだ」と思い出したようにポリポリとこめかみを掻いた。
ついでに片足でもう片足のスネを摩りながら決して猫に視線を合わせない鼠は言った。

「鬼太郎んちに今人間の客が来てるぜ」
「何よ、どーゆうこと?」
「事件解決のお礼とかじゃねえの?笑い声が聞こえてたしな、楽しそうだったんで邪魔はしなかったけどよ……結構可愛かったぜ?」
「何が?」
「人間の女の子」




「お前が手土産持参なんて珍しいな」

どんぐり眼をさらに丸くして、鬼太郎は白々しく家に上がりこんできたねずみ男を見た。
風呂敷に包まれた箱を手に、それをちゃぶ台において広げれば、中から香ばしい匂いと共に顔を出したのは、この辺では珍しい手焼きの煎餅だった。

「なに、ちょっとそこの道端で拾ってな?勿体無いから俺っちが保護したって訳よ。いただきまーすッ」
「待てよ!」

手を伸ばして煎餅を箱から取ろうとしたその手を、ぴしゃりと鬼太郎は払いのける。

「何すんのヨ、鬼太郎ちゃんっ」

さめざめとする鼠をじろっと睨み付けて、鬼太郎は口を開いた。

「こんな丁寧に作られたものがどうして道端に落ちていたんだよ、ねずみ男……さてはお前、また何かやらかしたのか?」

ギクリッと肩をすくませてねずみ男は頭を掻く。視線を泳がしながら、ふいにねこ娘の後姿を思い出し、結局何かやらかした事に変わりがないとだけ意識する。
どう繕った所で嘘っぱち扱いなら、そのまま話した所で大した違いはない。もともと「取り繕う」なんて芸当は考えもしないことだけに、ねずみ男は咳払いをひとつしてぶっきらぼうに言った。

「…ねこ娘のヤツがな、いつもの手土産を持って来たってんで途中まで一緒にいたんだよ」
「ねこ娘が?」

言われて見れば、土産を包んでいた薄紫の風呂敷は確かに見覚えがある。

「俺はよォ、その煎餅にありつけりゃ良かったんだが…少し前にお前ん所に客が来ていただろう?人間の、しかも女の子が―――」
「…」
「まあ、要するにそんな客が来てるからすぐには会えねぇよ、って言っただけなんだぜ?そしたらねこ娘のヤツ、いきなり土産を落としやがって、そのまま帰っちまいやがった。いやぁ、そうなるとやっぱりコイツは包みごと道端に落ちていたって事になるだろう?それを丁寧にも俺様が拾ってやったのさ。なぁに、礼をするってんならまあこの土産くらいで勘弁してやってもいいぜ。そうそう手焼きの煎餅って言ってな?この辺じゃ珍しいとかなんとか―――あれ?」

饒舌なねずみ男の身振り手ぶりが宙を切るものの、はたと見渡した視線の先には、つい今しがた自分を制して事情を聞いていた鬼太郎の姿は無く、しんと静まり返ったゲゲゲハウスの窓辺に留まっていた一匹のカラスが気だるそうにひと鳴きする。
すっかり取り残されたと知るや、それならば好都合とねずみ男はちゃぶ台に広げていた煎餅を頂戴しようと手を出すが、しかし虚しいかな、ちゃぶ台の上はすでにもぬけの殻、鬼太郎と手土産の煎餅は忽然と姿を消した後だった。




帰るところと行ったら妖怪アパート以外には考えられない。
鬼太郎は風呂敷に包み直した手土産を小脇に抱え、ねこ娘を追ってアパートの前にやって来た。
他の妖怪たちの気配が感じられないのは皆がそれぞれに眠りについているか、または昼でも行動時間で何処かへ行っているのか―――いつもなら竹箒を手に庭先を掃いている砂かけ婆も、将棋を打つ手が止まない子泣き爺も、その姿を見せる事はない。
ただ普段からよく馴染んだ妖気だけが、一室に篭り妙にひしひしと何かを訴えているのを感じるだけだ。

それにしてもねずみ男の性悪な手に乗せられ、丁寧な土産までも落としてゆくなどねこ娘には在り得ない話だと鬼太郎は思う。
余程の事を言われたに違いないが、しかし何も言われなければこうして自ら駆けつけることさえなかっただろう。感謝こそする事は無いが、ねずみ男の口の軽さには時々自分の勘を促す作用があるのではないかと考える。
鬼太郎は妖怪アパートに入ると、しんと静まり返った階段を昇り、ねこ娘が住んでいる部屋の前で足を止めた。
軽く二度、ノックをして声をかける。

「ねこ娘、僕だよ…鬼太郎だよ」

すぐに返事がないだろうとは思っていたが、やけに物静かな様子が気になる。
聞き耳を立てても、部屋にいるのはわかっていながら動いている気配がない。

「ねこ娘、居るんだろう?ここを開けてくれないか?」

ノックよりも少し強く戸を叩く。それでもいつもの彼女なら、どんな状況でも必ず答えてくれる筈なのに何も言ってこないのはどうも負に落ちない。嫌な予感ほどではないにしろ、鬼太郎はしばし考えてから、ノックをするのを止めて、そっとそのノブを掴んで回した。
ゆるゆるとした手ごたえと共に、部屋の戸が滑らかに開かれる。
やはり、元々部屋に鍵はかかってなかったのだ。静かな部屋に吸い込まれるようにして鬼太郎は入る。足元にはねこ娘のピンクの靴がひっくり返って不揃いになっていた。それをそっと揃え直して置き、自分もその隣に脱いだ下駄を並べる。

「ねこ娘…?」

上がりこんだその奥、小さなタンスと必要なものが丁寧に置かれただけの、しかし何処か小奇麗な部屋に居るはずのねこ娘の姿がいない。
気配はちゃんとあるのにその姿だけが見えないと言えば打倒か、鬼太郎はゆっくりと部屋の中を見渡して、そしてふとある事に気が付いた。
目に止ったのは普段は布団がしまわれている押入れ。僅かな隙間から漏れる小さな息遣いに誘われるようにして近づく。
音を消してそっと襖を明けると、綺麗に畳まれた布団にもたれる様に、こちらに背を向けて眠っているねこ娘が居た。

「………」

スンスンと鼻を鳴らし、頬には乾いた涙の跡が見える。
いつもならあんな鼠一匹、追いかけ回して引っ掻き攻撃を食らわす元気があるというのに、今日のねこ娘は様子が違ったのか随分悔しい思いをした様子がうかがえる。
こんな立派な手土産も、きっと仲良くしている人間から頂いたものなんだろう。ねずみ男が説明しないまでも、珍しいものくらいは良くわかる。ゲゲゲハウスに来る途中で帰って行ってしまったとなれば、バカな事を吹き込んだのはねずみ男以外考えられない。しかも、どうして「人間の女の子」だとか言ったのか。暖簾を掻き分けてちゃんと見れば、その隣には事件を依頼したその子の父親が居たではないか。
少女はただ、父親の安否を心配して着いて来ただけだと言うのに……。

鬼太郎はねずみ男に呆れながら、ねこ娘の濡れた頬を指先でぬぐった。
と、その気配に閉じていた睫がぴくりと動き、続いてゆっくりと瞼が開かれる。

「………」

ぼんやりとする視界に現れた少年の姿に、ねこ娘は四散していた意識をかき集めた。

「隠れていたのかい?」

声をかけられて目を見開く。たちまちまどろみから現実へと引き戻されて、ねこ娘は自分の置かれている状況に慌てふためくと、行き止まりでそれ以上隠れるスペースすらない押入れの奥へと身を寄せる。背を丸めて小さくなるとおそるおそる口を開いた。

「…鬼太郎、なんでいるのよ…?」

ねずみ男が話していた事をありありと思い出して、ねこ娘はそう尋ねる。
頭の中で自分が勝手に想像した状況が良くも悪くも浮かんでは消えた。

「お客さんならもうとっくに帰ったよ。人のいいお父さんだった」
「……?」
「だから余計に心配だったんだね…その人の娘さんがついて来たのがわかるよ」
「……どういうこと?」

肩越しに振り向くねこ娘の視界に、にっこりと笑う少年の顔が飛び込む。状況がいまいち読み取れない。しかし傍らに置いた手土産の煎餅が同時に見えた事で、ねこ娘はたちまち頬を紅く染めた。本当は何もかもねずみ男のいい加減で下らないハッタリだと何処かで知っていた。なのに確かめもせずに、ねこ娘はその口に乗せられた事が悔しくて、急いで帰って来た途端、なぜか部屋の押入れに入り込んでいた。

「あたし……ただ、鬼太郎にお土産を―――」

ゲゲゲハウスを背に駆け出した時、「人間の女の子」という言葉が胸の中で肥大してゆくのがわかった。簾を分けて、その女の子と鬼太郎が楽しそうに笑っていたら……などと想像した自分がおかしいのではないかと疑った。しかもそんな自分にわざわざ会いに来る鬼太郎にどんな顔をすればいいのか。

「あ、あたし……」

鬼太郎の側にいるのが、人間の、しかも自分の知らない女の子だと言うだけで、いちいち嫌な気持ちになるなんて考えられなかった。
どうせ鼠のイタズラに違いないし、まして多少の仕返しの嘘くらいは見破れるはずだったのに。
一目散に逃げるように駆け出していたのは紛れもなく心の中の自分が命令したことだ。

「…ごめんね…あたし、おかしいよね」
「どうして?」
「だって…!…ねずみ男の口車に乗せられて、こんな嫌な態度とってる…鬼太郎が人間の誰と仲良くしたって構わないのに―――今日はすごく嫌だった」

ぐいっ、と畳まれていた毛布を引き込んで、ねこ娘はとうとう頭からそれを被ると、石にでもなったつもりか、だんまりを決め込んだ。
じっと見詰める鬼太郎の視線が否が応でも背後に感じられる。
―――言いたくなかったのに、顔を見たら何を口走るか不安でたまらなかったのに、心の中ではこうして会いに来て欲しかった。単なる突発的な感情だろうが、自分意外の誰かと過ごす鬼太郎がこんなにも遠く感じるなんて思いもよらなかった。

それが、人の言う「やきもち」だとは認めたくなくて……。

すっ、と何かを引く音が耳を掠め、ねこ娘は瞑っていた目を開けた。毛布を被っているが、しかし周囲は真っ暗の闇に包まれる。流れを止めた空気は異様に密集している気がして、ねこ娘はふと毛布から顔を出した。
すると、真後ろに気配を感じて振り向くと、さっきまで押入れの外にいた鬼太郎がいつの間にか押入れに潜り込んでいた。
しかも丁寧に襖を閉めて。

「こんな真っ暗でも、ねこ娘は見えるの?」
「…ね、猫だから…」
「そか。じゃあ…僕の顔も今ちゃんと見えるんだね?」

どういうつもりなのかと眉を潜める。こんな狭い場所に入り込むのは自分だけでいいというのに、真っ暗な密室では息苦しいだけではないのか。

「ねぇ……ねこ娘」
「……なに?」

尋ねられてつい返事をするのが自分でもおかしいと思う。ねこ娘は罰が悪そうに顔を背けた。
見えるはずもない暗闇で、未だ背を向けたままの自分と、そのすぐ後ろにいる鬼太郎と、奇妙な構図だけが浮かび上がる。

「どうして、泣いてたの…?」
「え……」
「ねずみ男に変な話をされたからかい?それとも、負かされてしまったからかい?……どうして泣いてたの…?」

今頃になって自分が泣きながら眠ってしまった事に気付いて慌てて頬をぬぐう。もうとっくに消えた涙の跡をごしごしと手の甲でふき取りながら、ねこ娘は毛布の端をきゅっと握り締めて言った。

「……あたし……鬼太郎やみんなの事大好きなのに、こんなぐちゃぐちゃな気持ちになって、もう鬼太郎に会えないと思った」
「……」
「人間の女の子との方が、鬼太郎…楽しいのかなって、思って―――あたしみたいな猫妖怪の子よりも、きれいな心を持った人間の子の方が……好きなのかなって―――鬼太郎の隣に誰もいて欲しく無いって、そんな事思ったら…急に苦しくて会えなくて……」

乾いたはずの目にじわりと涙が浮かぶ。目頭が熱くなって、瞬きをした途端に溢れる雫がポロポロと零れ落ちた。
すると不意に背中に近づいた気配と同時に身体をきつく抱きすくめられ、ねこ娘はいっそう身動きがとなくなった事を知った。
自分の身を抱きしめているのは鬼太郎の腕。狭い押入れの中で、ねこ娘はぎゅっと鬼太郎に後から抱きしめられていた。
そして静かな声が耳元を掠めた。

「僕は…人間の知り合いを多く持つねこ娘が心配だな」
「え…」
「猫妖怪は何かと秘密主義だからね…僕の知らない所で誰かと仲良くしているねこ娘がとても気になるんだけど」
「な、何言ってるの…そんなことないよ…」
「妬けるんだ、正直言うとね」
「鬼太郎……」
「…とくに、きみの事となるとどうやら見境がつかなくなるらしい……」

ドクドクと心臓の音が聞こえる。触れた所から相手に伝わっているのではないかと思うほど、それははっきりと耳に響く。
ねこ娘は握り締めていた毛布と一緒に鬼太郎の腕を掴んだ。

「うそよ…そんな事ない」
「現に、今どうして僕がここにいるんだい?」
「そ、それは……」
「きみが来るのを待っていたんだよ……来ないなら、こうして迎えに来るだけさ。―――僕の隣にいるのは、やっぱりねこ娘がいい」

さらにきつく抱きしめられ、もう逃げる余地も無い。
暗くて狭い押入れの中、聞こえるのはふたつの心臓の音と熱い体温、そして切なくなる程に押し殺した息遣い。耳元を言葉が掠め、まるで懇願するように鬼太郎の唇がねこ娘のうなじに押し付けられる。

「僕は、きみがいいんだ」
「…鬼太郎」
「だから、もう泣かないで」

忽ち体中の熱が上がり、ねこ娘は蒸し暑さを感じて毛布を手放した。
きっと誰かが見たらそんな下らない「やきもち」に失笑するかも知れない。子供だからと馬鹿にするかも知れない。けれど、ねこ娘はそれでも側にいて欲しい少年がたったそれだけの事でわざわざ会いに来てくれたのが嬉しかった。そう、ねずみ男には感謝はしないけれど……。




手焼きの煎餅は、やはり人に親切にしているねこ娘へのお礼として頂いたものだった。ねこ娘が人として町にいる時はいつもそうした親切にしてくれたお礼として、色々なものを頂いて来る事が多い。もちろんそれなりの世話や手伝いをしているからであって、鬼太郎が心配するような事は実際には何もない。それ所か、見かねて鬼太郎がわざわざ手を貸す事だってあるくらいだ。困った誰かを助けるのにいちいち理由なんて必要ない、と促されては、さすがの鬼太郎でさえねこ娘には頭が上がらなかった。

妖怪アパートからゲゲゲハウスに戻り、入れたてのお茶をすすりながら、やっと一息ついて、頂いた煎餅をかじる。
ねこ娘に満面の笑みが浮かんだのを見て、鬼太郎は言った。

「それにしてもこんな良いものをねずみ男のヤツは独り占めしようとしてたんだな」
「もう何考えてるんだか、あのバカねずみ…!」

悔しそうに頬張る煎餅がパリパリと小気味良く鳴る。どうやらいつもの調子が出てきた様子のねこ娘を見やりながら、鬼太郎は熱いお茶を冷ましつつこれはこれで人間の娘となんら姿形は変わらないのだから不思議だと思う。勿論、それを言うなら自分も当てはまる所だが、しかし人とのつき合いに関してはその自分よりもねこ娘の方が数段にめまぐるしく、行き来する回数も多い。言うなれば「やきもち」はその分鬼太郎の方が比例しているのではないかと思うが、それは黙っておくことにしようと鬼太郎は視線をそらしてお茶をすすり、それと同時に押入れの中での出来事を思い出して頬が熱くなった。
やはりこの少女は自分にとっては少し特別な存在なのかも知れないと思いながら―――。

「いやぁ〜お二人さん、仲良くお茶なんぞすすって…」

僅かな静寂を唐突に破り、バサリと簾を掻き分けて入ってきたのはねずみ男だった。ついさっきの事など忘れて図々しい顔でへらへらと笑う。目の前に広げられた例の煎餅に気付いてちゃっかりと手を伸ばそうとしたその時、凄まじい猫の唸り声が部屋に響き渡った。

「いい加減にしなさいよねずみ男!人のモノを横取りするなんて最低ね!」

尖った鋭い爪をギラリと光らせ、化け猫の形相でねこ娘はねずみ男をにらみつけた。いつものねこ娘に戻ったのを察知するや、慌ててあとずさる。

「ね、ねこ娘…!げ、元気になってよかったじゃねぇか…っ」
「最初からあたしは元気よ!」
「でもよ、手土産を落としていっちゃいけねぇよなぁ…?」
「誰のせいだと思ってんのよ、アンタに食われる煎餅の方がよっぽど可哀相よッ」

どんな展開になろうとも、結局はいつも通りになったねこ娘を見て鬼太郎はほっとする。騒いでいてもうるさ過ぎる事はないこの場所に、ねこ娘という存在は不可欠で、どう考えようとも自分の隣に座るのは彼女を置いていない気がしてならないのは、単に気のせいでも勘違いでもなく、現にその姿を待っていた事はなんら事実であって、腕の中に抱きしめたそれこそが自分の言いたい事だと鬼太郎は今はっきりと口に出したいと思った。

散々引っ掛かれて終いにはゲゲゲハウスから追い出されたねずみ男を簾越しにねこ娘と見送って、鬼太郎はもう一度熱いお茶を入れ直した。

「ねこ娘、僕の隣においでよ」

振り返ったねこ娘にぱっと花が咲いたような笑顔が浮かぶ。
それを見詰めて鬼太郎は嬉しそうに答えた。

「きみが来てくれるのを待ってたよ」

もうじき陽が西に傾く。今夜は他の仲間を呼んで楽しく鍋にでもしようかと提案すれば、ねこ娘の笑顔がますます輝いたのは言うまでもなかった。




day by day/061216


なんと当サイト一周年の記念に、ちょろた様から頂いたSSです〜vvv
ヤキモチねこちゃんのお話ですね。揺れる乙女心に悩む、女の子らしいねこ娘がとおってもかわいらしいです。
脱ぎ散らかされた靴や押入れなど、小物使いが非常に鮮やかで、情景が目に浮かぶような作品です。
ちょろたさんの作品にはめずらしく、ねずみ男も登場! うれしーい! 
ちょろたさんの描く鬼太郎は、想いをストレートに伝えるんですね〜。
最後の台詞なんて、もう殺し文句ですってば! もうっこの、ジゴラー鬼太郎!<何;;;;
とってもかっこよくて、いつもトキメイてしまいますっ。ぜひうちの鬼太郎に爪の垢を!!!
ちょろた様、いつもすてきなSSをどうもありがとうございますvvvv